川高生の皆さんへ
2023年3月28日 19時15分生徒の皆さん、春休みをどのように過ごされていますか。エネルギーを十分に蓄え、4月からも笑顔で楽しい毎日にしてください。生徒会誌『たちばな』第64号の巻頭言に書いた「挑戦し、失敗し、挑戦し、」を載せ、皆さんにエールを送ります。
先日、ある新聞記事を読み、自分が小学生ならこのような理科の授業を受けたい、と思うことがありました。「教科書とは違った子どもの実験結果を『失敗』とみなし、教科書通りの結果を『成功』として取り上げる授業」は「やってはいけない」と書かれていました。そして、「これまで『失敗』と言っていた実験は『予想とは関係がないことを証明した』という意味で、『成功』実験と等価値であることを、子どもに指導する」ことの重要性が強調されていました。加えて、子どもが「今もこの先の人生でも、幸福で心豊かに生きることが第一」であり、理科の学びがその点に貢献することが求められる、という内容でした。
私は、アメリカの発明家・企業家であったトーマス・エジソンの、「私は失敗したことがない。ただ、一万とおりの、うまくいかない方法を見付けただけだ」という言葉を思い出しました。エジソンは、他にも同様な言葉を残しています。「失敗したわけではない。それを誤りだと言ってはいけない。勉強したのだと言いなさい。」「私は決して失望などしない。なぜなら、どのような失敗も新たな一歩となるからだ。」「困るということは、次の新しい世界を発見する扉である。」エジソンは、特許数1,300件を超える発明を行って事業化に努力し、蓄音機や白熱電球、活動写真などの発明によって人々の生活を一変させた「発明王」です。彼の言葉からは強靭な精神力や不屈の信念とともに、旺盛な好奇心や探究心がにじみ出ています。先述の新聞記事のように、失敗も成功も等しい価値を持つと考えて前へ進み、幸福で心豊かに生きたのではないでしょうか。
実験での失敗と同じく、生活の中での失敗も辛く悲しいものです。時には、悔しくて情けない気持ちになり、自分を責めたり自己嫌悪に陥ったりします。私はこれまで多くの失敗をしました。しかし、今となれば、その一つひとつは私の人生にとって意味のある「勉強」でした。
大学1年生のころ、レストランで給仕のアルバイトをしました。忙しいときほど、段取りよく仕事を片付けることにやりがいを感じて楽しく、ある時、客席から下げた食器を洗い場へ運び込んだ際に、思わず口笛を吹いてしまいました。すぐに、料理長の「止めろ」という鋭い声が飛んできました。私は、仕事に追われていたことに甘え、食器を置いて謝りに行くこともせず、「はーい」という軽い返事だけで終わらせてしまいました。すると、料理長が普段とは違う険しい表情でやって来て、「お前とは一緒に働きたくない。帰れ」と厳しい口調で私を一喝しました。その後、店長が一緒にお詫びをしてくれて許されましたが、仕事場の真剣な雰囲気を二度までも乱した浅はかさと、プライドを持って働いておられる方々への敬意を欠いた態度を深く反省しました。そして、人と誠実に向き合うことの大事さとともに、働くことの重みを痛感しました。
また、教員になって初めてクラス担任をしたときのことです。ホームルーム委員は、私の依頼や指示に真面目に応えてくれる女子生徒でした。笑顔を絶やさないその生徒の細やかな気遣いと丁寧な仕事ぶりに、随分と助けられました。5月の下旬、家庭訪問週間に彼女のお宅へ伺い、母親と懇談をしました。私は彼女の献身的な活躍を伝え、ほめ上げました。すると母親は、「疲れているのか、毎日学校から帰るとすぐ横になります」と教えてくれたのです。私は言葉を失いました。期待に応える喜びと多忙ゆえのつらさとの板挟みで苦しんでいることに気付けなかったのです。しかも、感謝とねぎらいの言葉が彼女を追い詰めていたことにも無自覚でした。それからは、生徒への接し方や教員としての在り方を深く考えるようになりました。
川之石高校(川高)の校歌には、自分の力を信じて前向きな一歩を踏み出してほしいという願いが込められています。本校同窓会関西支部長の城岡陽志(しろおか きよし)様は、高校を卒業して大阪のネジ商社に就職され、その後独立して、1980年に太陽パーツ工業を創業なされました。以来、一貫して「どうすればお客様に喜んで頂けるか」を基本テーマに会社を経営され、現在、国内外に多くの事業所や工場、関連会社をもつ太陽パーツ株式会社取締役会長として活躍なされています。城岡様の経営理念や人材育成の成果は、テレビやラジオ、雑誌等でも取り上げられ、令和4年12月号の『中等教育資料No.1039』(文部科学省)にも、「教育小景」というコラム欄に、「大失敗賞」という題名で、次のような内容のエッセイを書かれています。
城岡様は、自社製品を持ちたいという思いで、常日頃から社員と夢を語っておられました。ある日、一人の社員からカー用品業界の製品の提案があり、企画をスタートさせて新商品を製造・販売されました。しかし、カー用品業界のルールを知らなかったこともあって、結果的に多額の損失が出てしまったそうです。城岡様は、続けてこう書かれています。「担当者はふさぎ込み、周囲は声も掛けられない暗い雰囲気の中、打開策が浮かばずに悩んでいたとき、壁に掛かっていた額の『ピンチはチャンスの芽』が目に入りました。そうだ、今はピンチ。これをチャンスの芽に変えればいいのだと。そこで、この失敗を単なる失敗として終わらせず、貴重なノウハウとし、元気を出してまたチャレンジしようという願いで、経営発表会の場で『大失敗賞』として表彰することにしたのです。後日、受賞者の当人は『クジラは一度大きく潜って大きくジャンプして飛び上がる。自分もこのままでは終わらないぞ』との決意で、賞金でクジラのネクタイピンを買ったそうです。これを聞いたとき、『大失敗賞』で奮起してくれたことにホッとしました。その後、彼は大きな事業の立ち上げに志願し、見事失敗を成功に変えてみせたのです。」そして、エッセイの最後を、こう締めくくっておられます。「人生100年時代、長い人生には進学・就職などのターニングポイントがあります。全てのことがうまくいくなどありえません。失敗・挫折を経験して、ノウハウや知恵、考える力がついてきます。要は自分の気持ちの持ち方、考え方で道は開けます。生徒の皆さんには、恐れずチャレンジする人生を歩んでほしいと思います。」いつも川之石高校を気に懸け、支援してくださっている城岡様の、「生徒の皆さん」という言葉が、私には、「川高生の皆さん」という呼びかけに思えました。
3年次生の皆さん、卒業おめでとうございます。自分の道を開くために挑戦し、失敗してもそれを新たな一歩として、挑戦し続けてください。