令和4年度『進路の手引き』巻頭言
2022年7月25日 17時30分 夏休みを迎えるに当たり、本校の進路課から生徒たちに、令和4年度『進路の手引き』を配布しました。その巻頭言に「夏は熱く」と題した、下のようなメッセージを書きました。
生徒の皆さん、新型コロナウイルス感染症や熱中症などに十分気を付けながら、充実した夏休みにしてください。
3年次生にとって今年の夏は、自分の進路を決定する上で、とても重要な時期です。1年次生と2年次生にとっても、進路について考えたり、その実現に向けて準備をしたりする時間が十分にとれる夏休みは、とても大切な期間です。皆さんは、そのような「夏」に、何をどのように取り組みますか。私が働き始めたころに経験したことを参考にしてもらいながら、将来、社会に出て働くこととなる自分の姿を想像したり、自分の進路希望や夢を実現させるための夏の過ごし方について考えたりしてほしいと思います。
私は県立高校の教員(社会科)に採用されたものの、最初の職場は学校ではなく、県内の遺跡を発掘する調査センターでした。考古学を専門的には学んだことがなく、他の職員に、遺跡を識別するための土の色の見分け方から教わりました。1年目は、約2千年前の弥生時代の集落跡を、私を含む5名の職員と15名の作業員とで調査しながら仕事を覚えました。
次の年は、いくつかの調査地を任され、初めて主担当となったのは、標高約140mの山頂近くにあった遺跡でした。7月初め、私と臨時職員、作業員3名の計5名で発掘を行い、当初は10日程で調査を終える予定でした。しかし、予測を超える量の遺物が出土して、結局、調査は2か月間に及びました。
主担当者には、関係者と調整しながら調査の進み具合に応じて作業の日程や方法を決め、作業員の勤務や健康を管理し、必要な道具や機械を調達するなど、様々な業務がありました。山のふもとから調査地までは、人一人が歩ける程の狭い急な山道で、自動車はもちろん小型重機も通れなかったので発掘はすべて手作業となり、出土遺物も多いので作業員を増やしました。また、調査期間が延びる中、事務や休憩用のプレハブ小屋を建てることも、電気や水道、電話を引くこともできず、雨や強い日差しを避けるためのテント二張りを、みんなで一緒に担ぎ上げました。
その年の夏は、例年にない猛暑日続きで、毎朝、カメラ機材の入ったケースを背負い、全員で使う手洗い用水を入れたポリ容器を両手に持って山道を登るのが、私の仕事の始まりでした。そして、携帯電話などがなかった時代でしたので、昼休みに山を降りて、公衆電話から、本部に連絡をしたり、関係者や業者と打ち合わせをしたりしました。発掘状況によって必要なことやものは変わり、それに応じて仕事の段取りは違ってきます。現場責任者である以上、経験の浅さは言い訳にはなりません。不便な環境下であることを踏まえ、状況の変化を見て今後を予測し、対応を決断して行動に移す。これを、失敗しながら無我夢中で繰り返した、長くもあり短くもあった、暑い夏の熱い日々でした。
教員4年目に南予の小規模校へ異動し、初めて高校生と向き合いました。3年生のクラス担任となり、日本史を教えましたが、時間割の都合上、大学受験に対応させるためにはどうしても授業時間が足りません。そこで、生徒の希望を確認し保護者の承諾を得た上で、男子生徒7人に夏休み返上で臨時補習を行いました。その中の一人は、クラスの卒業文集に3年間の思い出として、その臨時補習を挙げていました。彼らと私にとって熱い夏でした。
昨年度(令和3年度)の『進路の手引き』の巻頭言でも少し紹介しましが、目標を達成するための方法に、「フォアキャスティング」と「バックキャスティング」という二つの方法があります。フォアキャスティングは、「今」を出発点として、その時々の状況の中で実現可能と考えられることを積み上げながら、未来の目標を目指す方法です。教員となって最初の3年間の調査センター勤務では、主にこの方法で仕事を進めました。一方、バックキャスティングは、「未来」のある時点に目標を設定しておき、そこから振り返って現在すべきことを考える方法です。教員4年目で赴任した高校で実施した、受験に必要な学習内容を把握し、計画を立てて勉強した夏休みの臨時補習は、この方法で行いました。働き始めたころの夏の日々の経験を、私は今でも心の支えの一つとし、仕事をする上で生かしています。
生徒の皆さんは、進路実現への備えや勉強、部活動などを、フォアキャスティングとバックキャスティングのどちらの方法で取り組み、熱い夏にしますか。