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卒業式

2025年3月4日 11時41分
校長室より

卒業式の式辞として、次のようなお話をさせていただきました。

校庭の木々の芽も膨らみ、日ごと春めく今日の佳き日に、多くの御来賓の皆様、保護者の皆様の御臨席を賜り、令和六年度 愛媛県立 川之石高等学校 第七十六回 卒業証書授与式を挙行できますことは、我々教職員一同にとりまして、大きな喜びであります。厚くお礼を申し上げます。

さて、ただ今、卒業証書を授与いたしました八十一名の皆さん、卒業おめでとうございます。皆さんが本校に入学した、令和四年からの3年間で、世界は大きく変わりました。ロシアのウクライナへの侵攻と戦闘の継続は、人権や国家主権、集団安全保障といった近代国際社会の秩序を揺るがせました。新型コロナの感染拡大とwithコロナの新しい生活様式は、対面による人との交流や働き方を見直す契機となりました。そしてChatGPTのサービス開始に象徴されるAIの進化は、あらゆる場面でこれまでの常識を覆そうとしています。

私たちは、このような変化に、否が応でも向き合っていかなければなりませんが、これは簡単なことではありません。時には、変化に取り残されているような不安を感じたり、変化にいち早く対応し成功している人を、うらやましく感じたりすることもあるでしょう。私自身、そう感じたことがある一人ですが、最近、一つの文章に出会いました。

御存知のように、本校は今年度、110周年を迎え、記念行事等を執り行うことができました。その過程で手に取った、70周年記念誌に掲載されていたのが、本校卒業生で俳人の、坪内稔典先生による記念講演の記録です。講演の中で、先生は、

「私が確信したことは、『その時代に、もてはやされるものは、実は、それほど大事なものではない』ということでした。みんながもてはやすもの、その時代に一番いいと思われているものは、多くのものを見捨てて成り立っています。だけど、人間の本当の幸せとか、本当の価値、本当の喜びというものは、その時代が見捨てているものの中に、息づいていると思うようになったのです。」

「私が言いたいのは、日常のささやかな事柄が、実は、人間の生き方に大きく影響するのだということです。私は今も、川之石高校で学んだこと、身に付けたことを誇りに思い、自分の考え方の基本にしているのです。私にとって、高校時代を思い出すことは、自分の生き方を振り返る原点になっています。」と述べられています。

卒業生の皆さん。皆さんは、これから、新しい世界で、新しい価値観や考え方に出会うことになるでしょう。その時には、新しいものを無批判に受け入れるのではなく、ここ川之石で、家族や友人たちと共に育んできた価値観や考え方と、対比してみるよう心掛けてください。これまで育み、身に付けたものを、自分の中心にしっかりと持ち、その上で、新しいものを一つ一つ吟味し、自分の周辺に配置していくことで、皆さんの人間としての幅、包容力が、大きく広がっていくものと期待しています。

最後になりましたが、保護者の皆様におかれましては、本校の教育活動を温かく見守っていただき、多大なる御支援と御協力を賜りましたことに、心から感謝いたしますとともに、大切に育ててこられたお子様が、本日、卒業の日を迎えられましたことに、改めてお喜びを申し上げます。

卒業生の皆さんは、保護者の方や、お世話になった方々に、感謝の気持ちを伝えてください。「ありがとう」と言葉にして伝えることの大切さは、これからも変わることはありません。感謝の気持ちを胸に、新しい世界に飛躍していく皆さんの、御健康と御活躍を心から願い、式辞といたします。

令和七年三月一日 愛媛県立川之石高等学校長 矢野重禎